2021年1月30日実施 第1回共通テスト第二日程 古文『山路の露』

文責:宮崎県都城市の学習塾 個別指導塾Ace

夕霧が立ち込め、道はとてもこころもとないが、(女君を思う)深い心を道しるべに、急いでお行きになるのも、一方では不思議で、(女君が出家してしまった)今となってはもはやこうして出向いても無駄であろうに、とお思いになるが、せめて過ぎ去ったあの頃の夢語りだけでも語り合いたいものだと、先を急ぎたくなるお気持ちであった。

浮雲をはらうあたりの嵐に、月がくまなく澄んで東の空に上っており、はるか遠くまで思われる心地がして、いっそう思いの限りを尽くされることだろう。

山が深くなるにつれて、道はますます草木が茂り、露も深いので、御随身はとても目立たないよう装っているが、かえってこの状況にふさわしく、御前駆が露をはらう様子も趣深く見える。

女君の住む場所は、山の麓にあるとてもこじんまりとした場所であった。

まずあの童を入らせて様子をうかがわせてみると、

童「こちらの門らしきところは閉じてあるようです。竹垣をわたしてあるところに通り道があるようです。さっそくお入りください。人影もございません。」

と申し上げると、

男君「しばらく、静かにしているように」

と仰って、ご自分だけで入りなさる。

小柴というものを形だけととのえてあるのも、(このような山奥の小さな庵では)いずれも同じことだが、ここはとても親しみ深く、風情ある様子である。(女君のいるところだと思うとそう感じられるのだろうか。)

妻戸も開いており、「まだ人が起きているのだろうか」と見受けられるので、茂っている前栽のもとから伝い寄って、軒に近い常盤木の枝が一面に茂りわたっている下に立ち隠れてご覧になると、こちらは仏の御前であるらしく、香がとても深く香ってきて、ちょうどこの端の方で仏道修行をする人がいるのだろうか、経を巻き返す音も、ささやかに親しみ深く聞こえて、しんみりと心にしみてきて、なんとなく、そのまま涙があふれる思いがして、しみじみとご覧になっていると、しばらくして、おつとめも終わったのだろうか、

女君「とても美しい月の光だこと」

とつぶやいて、簾のはしを少し巻き上げ、月をじっと眺めている横顔は、昔のままの面影がふと思い出されて、この上なく趣深く、ご覧になると、月の光が一面に差し込んでいるところに、鈍色、香染などであろうか、袖口が親しみ深く見えており、額髪が削がれてゆらゆらと揺れている目元の様子はとても美しく趣深く、このような尼の姿であるのがかわいらしさが増して、耐え難くみつめなさっていると、やはりもうしばらく月を眺めて、

女君『里を区別なく照らす月の光だけが以前の秋に見たのと変わっていないようだ(特に私はこのように変わってしまったことだ)』

とひそかに一人つぶやいて涙ぐんでいる様子はとても趣深く男君も、それほど心を静めることができなかったのであったろうか、

男君『ふるさとの月は涙にくもってしまい、あのころのままの月は見えなかったことだ(あなたがいなくなってから、私は涙にくれ、月をまともに見ることもできませんでしたよ)』

と詠んでふと近寄りなさると、女君はとても思いがけないことであり、

女君「化け物などというものであろう」と不気味に思って、奥のほうへ入ろうとなさるその袖を引き寄せなさるにつけてもこらえきれない(男君の)ご様子を見ると、(女君は)「やはり、男君だ」と分かりなさり、ひどく恥ずかしく、口惜しくも思われ、

女君「ただただ不気味な化け物であれば、どうしようか、いやどうしようもない(化け物ならしょうがないと諦めることもできたのに)。自分がこの世に生きていると男君に知られてしまった(リード文参照。女君は、男君の前から姿を消し、もう死んだものと思われたいと思っていた。しかし、男君に自分の生存がバレてしまい、童を通じて連絡が来ていた。)のが辛いことだと思い『どうにか自分はもうこの世にいないと聞き直していただきたいことだ(やはり女君は既に死んでいた、と男君に改めて伝わってほしい)』とあれこれ願っていたのにもう逃れがたく見つけられ申し上げてしまった。」

と、もうどうしようもなく、涙ばかりが流れ出て取り乱した様は、ひどくあわれである。